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最高裁判所第三小法廷 昭和25年(あ)350号 判決 1950年12月24日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人松田真男の上告趣意一及び四について。

論旨一は、原審が被告人に有利な事実及び証拠を取り調べずまた証拠提出の機会をも与えず、被告人が入手し得た本件牛売渡書の真疑も判断しないで控訴を棄却したのは、審理不尽、採証法則の違背であり、公正妥当な裁判を受くべき国民の権利を剥奪した憲法違反があるといい、論旨四は、被告人は第一審において拘束されていて充分な証拠の提出ができず保釈後控訴審において新証拠を提出しようとしたのであるが、原審は新証拠の提出及び事実取調の機会を与えないで被告人拘束中の不完全な証拠のみによって判決したのは審理不尽、人権擁護の原則に違背し憲法に違反するものであるというのである。

しかし、新刑訴法による控訴審は事後審であって、旧刑訴法におけるように覆審ではない。すなわち、新法の下における第二審は、第一審判決の事実の認定と量刑が妥当であるか否かを第一審で取り調べた証拠及び訴訟記録によって判断し、また法令違反の有無又は刑訴法三八三条所定の事由の有無を審査するのであって、旧法における控訴審が覆審としてすべての事実に亘って取調を新たにしたのとは異なるのである。もとより、新法の下における控訴裁判所は、純然たる法律審ではないから、事後審としての前記審査をするについて必要があるときは事実の取調をすることができるし、又これをしなければならない場合もあるが、その取調の限度は第一審判決に存する当事者の主張し又は職権で調査すべき破棄事由の有無の審査に限られるのであって、旧法の覆審の場合のように新たな事実の認定や量刑を目的として自ら証拠を取り調べるべきものでないことは、前条の調査をするについて必要があるときに事実の取調ができることを規定した新刑訴三九三条一項及び第一審判決を破棄した場合には原則として事件を原裁判所に差し戻し又は他の裁判所に移送すべきであって、事件につき控訴裁判所自ら判決するのは例外の場合に限られることを規定した新刑訴四〇〇条からも窺い知られるのである。論旨は、第一審においては被告人は勾留中であって充分に証拠を集取できなかったと述べているが、新刑訴法は被告人と弁護人との交通権を確保し、必要的弁護の範囲を拡大してその保護をはかっているのであり、しかも本件において被告人の原審弁護人が所論証人の取調を請求した事実は記録上これを認めることができない。所論は新法の控訴審を旧法における覆審と同一視した誤解に出るものであって原判決には所論のような違法はない。そして、上訴審の組織権限をいかに定めるかは立法上の政策問題であって、憲法上の問題でないことについては、当裁判所の判例(昭和二二年(れ)第五六号同二三年二月六日大法廷判決)の示すところであるから、所論違憲の主張は理由がない。

同二及び三について。

所論は、事実誤認及び量刑不当の主張であって、刑訴四〇五条に定める事由に当らないから上告の適法な理由とならない。なお、本件については刑訴四一一条に定める事由のある場合とも認められない。

よって、刑訴四〇八条に従い主文のとおり判決する。

以上は、裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介)

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